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アーティストと職人

アーティスト気質と職人気質【Another Viewpoints】

日本庭園協会・神奈川県支部でメディア関連のサポートをしている
ライターの浦田です。

今回は、インタビューを生業とする私から見た
アーティストと職人の違いについて書いてみます。

たかだか20年ほどかけて100人~200人ぐらいと会っただけの
非常にサンプル数が少ない話なので、その点、ご了承くださいませ。

もちろん全員がそうとは限らないのですが
けっこう、自らそう話される方が多かった傾向なので
何かの参考になれば幸いです。

職人は作ったそばから反省をする

少し前に飴細工職人さんをインタビューしました。
話題の中心は、大きな作品ではなく
お祭りの縁日で出している
小さめの飴細工についてです。

まず、保温機から取り出した柔らかい飴を直径4~5cmほどの玉にします。
そこから指で伸ばしたりつまんだりしながら
ウサギや犬、金魚などの形を生み出していくのですが
私はその際にどんなことを考えているかを質問しました。

…無心なのだろうか。
…それとも、次の工程を考えているのだろうか。

次の工程を考えていることに間違いはなかったのですが
意外な答えが返ってきました。

「つくったそばから反省しています。
次の工程でどうリカバリーしていこうかと。
次の飴では同じことをしないように…
さすがにずっとやっていると
考えるというよりは体が動く感じでしょうか」

飴は熱いうちにしか加工できません。
冷えて固まるまでの持ち時間はたったの5分。
しかも、伸ばしたところは表面積が大きくなり
一気に冷えて固まってしまいます。
やり直している時間もなく、
一発で形を極めていかねばなりません。

時間軸がお庭屋さんとは違うかもしれませんが、
ひょっとすると似たような感覚の方もおられる気がします。

私が職人さんを取材していてよく聞く言葉は
「一生かけて勉強です」
「私なんてまだまだです」

その気持ちがあるからこそ、明日、さらに良いものをつくれる。

ただ、それと同時に
この言葉は魔法の言葉でもあります。

自分に対して厳しいように聞こえる側面もありますが
タイミングと対象を間違えると
納品物に対して責任を持っていないようにも聞こえます。

「まだ勉強中の身ですから」
これは、同業者内にとどめておいたほうが良い言葉です。
お客様にとっては、たった一度の庭づくり。
たった一度きりの本番の機会なのですから。

職人気質は、人生に対して目標があり、
一生かけて向上できる素晴らしい考え方です。
同業者内なのか対顧客なのか
そこをミックスしないように気を付けると
実直で向上心があることを広く理解してもらえると思います。

アーティストは生み出したものを我が子のように愛する

対して、アーティストの方を取材した時は
かなりポジティブな発言を聞きます。

「どうです、いいでしょう」
「10年前の作品ですが、今見ても良いですね」

秒単位で反省している職人さんとは、まったく異なります。
これは作品を買った人にとってとても気持ちがよいものです。

作家さんによって

・無心でつくられていたり
・大いなる目的があったり
・ただただ心地よさを求めていたり
・はたまた真逆の心をひっかくようなものだったり

あまりにも作られているものが
人によって異なりすぎているので
ここで端的な例を出しづらいことこそ
作家さんという人種の多様性なのだと思います。

そのそれぞれの作家さんに共通することは
どの作品も自らのすべてをかけて産んだ作品として
話し、記憶し、愛していることです。

ただ、同時に、現在進行形の作品については話しづらそうな時もあります。
過去に生み出した作品は、振り返れるけれども
この作品は未来だから、という印象です。
まだ、どうなるかわからない。
想定を超えてもっと良くできるかもしれない。
作品とは未知数のものなんだなと感じます。

対して職人さんに同じことを質問をすると、
今まさに取り組んでいることについて、目を輝かせて話されます。
ここはこうする、あそこはこうしたい。

私にとってあまりにも好対照な両者ですが
ともに取材や原稿執筆が楽しい相手であることは言うまでもありません。

アーティスト気質の良いところをまとめてみると
作品を購入した人がうれしくなるリアクションを取ってくれる。
何よりも作った本人が「どうだ!」というわけですから
持ち主は、誇りを持って作品を所有できます。

ただ、その自信や誇りは、大衆には迎合していないことも特徴。
だからこそ、「どうだ!」が独り歩きする怖さもあります。
作家さんはそのあたりどこ吹く風という方が多く気にしていなさそうですが
とにかく、作る側と買う側の好みが合わなければ
接点を生んでいきにくい側面があります。

まとめ

職人気質もアーティスト気質も、双方素晴らしい生き方・考え方です。
勝手にいろいろ書き連ねましたが
この文章は職人さんや作家さんに
「こうなってくれ」という話ではありません。

むしろ、私たち市中の人々が
職人さんや作家さんに対して「あれ?」と思ったときに
「あ、こういう可能性もあるんだな」と
やわらかい落としどころになればと思って書いてみた次第です。

 

ライター 浦田浩志

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